この記事では、救急現場で行われる活動の1つ
「全身観察」について解説しています。
救急車に乗り始めたばかりの新人救急隊員はもちろん、現役隊員の復習や新人教育で利用できるように、可能な限り救急現場に即して必要十分な情報で纏めました。
また初期評価は、救急資格(救急標準課程や救急救命士)の必要がなく、PA連携で先着した消防隊員にも必須スキルです。
この記事を読むことで、
全身観察の目的・重要性・評価方法が理解でき、自信を持って現場で迅速な「観察+評価+処置」を行えるようになります。
※救急活動の全体の流れ、他の救急活動については
↓記事から確認してください。
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- 必要に応じて各公式サイト参考
当サイトは、消防吏員(救急隊員など)向けに運営・執筆しています。
他の医療従事者(医師・看護師など)が病院内で行う行為と一部記述に差異(簡略化など)がある箇所がありますのでご了承ください。
※活動する環境(人数含む)・資格による行える処置・使用できる資機材等のため
それでは、本題に入ります。
共に学びましょう!
前提:全身観察とは
傷病者の状態を詳細に把握するため、全身を観察します。
初期評価では生理学的に傷病者の状態を把握しましたが、全身観察では解剖学的に評価していきます。
視覚・聴覚・嗅覚・触覚をフル活用し
必要に応じて観察資機材を用いて傷病者の状態を正しくかつ漏れなく評価します。
全身観察は部位毎にわけて(頭から順番に)実施すると
観察の漏れがなく、評価もし易いです。
- 頭部
- 顔面
- 頸部
- 胸部
- 腹部
- 四肢
- 背部
これらの観察&評価を、2分弱で実施します。
外傷と急病の全身観察の違い
外傷の全身観察
外傷の場合、外力(機械的、物理的、化学的)により生じた組織・臓器の損傷のため、主に皮膚・筋肉・骨・血管・臓器・神経の損傷有無を観察・評価します。
病院選定は(整形)外科治療が可能な病院になります。緊急度・重症度により治療可能な病院が変わるため、緊急度・重症度を意識して観察・評価することが重要です。
また、外傷についてはJPTEC(病院前外傷教育プログラム)のガイドラインに沿って実施することを基本とします。
※各MC(メディカルコントロール)で別途決められたプロトコールを遵守してください。
>>JPTECについて別記事作成予定
急病の全身観察
急病の場合、内因性(病気等)により生じた症状を観察・評価する必要があるため、外傷と比較して直接目で見えない場合が多く、関連痛(放散痛)なども含め類推する必要があります。
病院選定は内科or外科治療が可能な病院になります。緊急度・重症度も重要ですが、専門(脳・呼吸器・循環器・消化器など)によって治療可能な病院が変わるため、何科の疾患かを意識して観察・評価することが重要です。
各病院(医師)によって得意とする分野に違いがあるため、日頃から各病院の特徴を把握することも重要です
観察の方法
観察の方法は
- 視診:目で見る
- 聴診:耳で聞く
- 触診:手で触れ
- 打診:叩いて
があります。
それぞれ簡単に説明します。
視診:目で見て観察する
視診では外出血や変形の有無など、目に見える情報を医学的に観察・評価します。
創傷、皮膚の色調などから局所の異常を判断するとともに
生体内部の異常を類推する。
例:出血・嘔吐・打撲痕や頸静脈怒張・気管偏移、不穏など
聴診:耳で聞いて観察する
聴診では発声や気道の音、呼吸音や腸雑音、骨端が擦れる軋轢音など、耳から得られる傷病者の情報を聴取します。
さらに聴診器を使用することで、より詳細に”音”を聞き分け評価します。
例えば
- 呼吸音であれば、正常な呼吸音とともに副雑音(ラ音など)が聴こえないか、呼吸音の減弱や消失の有無など
- 腹部であれば、腸雑音(グル音)が聴取できるかなど
触診:手で触れて観察する
触診では、手指や手掌を用いて傷病者の状態を観察します。
例:腫脹や膨隆、皮下気腫、動脈の拍動、皮膚の弾力、筋肉の緊張、熱冷感、動揺や圧痛、軋轢音、握雪感など
打診:叩いて観察する
打診では、観察部位を直接叩いたり、①手指の腹を当て、②他方の指先で①の指の甲をたたき傷病者の状態を観察します。
例:腰背部叩打で傷みの増悪、鼓音や濁音などによる気胸・血胸判断など
全身観察の方法【基本手技】
それでは、実際に観察の方法をみていきましょう。
①頭部の観察
頭部は視診と触診で観察をします。
- 頭部全体を視診し異常がないか確認
- 触診で腫脹や圧痛などがないか確認
頭部は髪の毛に覆われており、しっかりと触診をしないと創傷・腫脹を見落としやすく
また出血が発見できても、血液により髪の毛が頭皮などとくっつき出血部位の特定が困難であることがあります。
出血量があまりにも多い場合を除き
メインで観察する隊員は、頭頂部、左右側頭部、後頭部など大まかな部位を特定したら他の隊員に詳細な部位の特定を依頼し、次の観察項目に移行する考慮も必要です。
②顔面の観察
顔面は視診と触診で観察します。
- 血色や表情を視診し異常がないか確認
- 触診で腫脹や圧痛などがないか確認
顔面麻痺、眼位異常、瞳孔異常、構音障害があれば頭蓋内や顔面の疾患
③頸部観察
頸部は視診、触診、聴診で観察します。
- 視診で出血などの損傷や、そのた異常がないか確認
- 触診で腫脹や圧痛、硬直などがないか確認
- 呼吸音に異常(狭窄音)がないか確認
項目 | 方法 | 評価 | 疑う疾患(例) | 病院選定 |
---|---|---|---|---|
外表の損傷 | 視診・触診 | あり or なし | 外傷 | 外科・整形 |
頸静脈怒張 | 視診 | あり or なし | 心不全・緊張性気胸 | 循環器 |
気管偏移 | 視診・触診 | あり or なし | 気胸 | 呼吸器 |
後頸部圧痛 | 触診 | あり or なし | 脳疾患 | 脳 |
後部硬直 | 触診 | あり or なし | 脳炎・くも膜下出血など | 脳 |
呼吸音 | 聴診 | 正常 or 異常 | 気道狭窄・閉塞 |
④胸部観察
胸部は視診、聴診、触診で観察します。
項目 | 方法 | 評価 | 疑う疾患(例) | 病院選定 |
---|---|---|---|---|
外表の損傷 | 視診・触診 | あり or なし | 外傷 | 外科・整形 |
奇異呼吸 | 視診 | あり or なし | 無気肺・気胸・血胸・気道内異物 頸髄損傷 フレイルチェスト | 呼吸器 神経内科 外科 |
呼吸音 | 聴診 | 正常 or 異常 | 肺水腫・気胸・血胸・喘息 | 呼吸器 |
心音 | 聴診 | 正常 or 異常 | 心タンポナーデ 弁膜症・脚ブロック | 循環器 |
皮下気腫 | 触診 | あり or なし | 気胸 | 呼吸器 |
圧痛・動揺 | 触診 | あり or なし | フレイルチェスト | 外科・整形 |
⑤腹部観察
腹部は視診、聴診、触診で観察します。
項目 | 方法 | 評価 | 疑う疾患(例) | 病院選定 |
---|---|---|---|---|
膨隆 | 視診 | あり or なし | 腹水、腹腔内出血、腸閉塞 | 消化器 |
腹壁静脈の怒張 | 視診 | あり or なし | 肝硬変・下大静脈閉塞 | 消化器・循環器 |
腸雑音 | 聴診 | 正常 or 異常 | イレウス・腸閉塞 | 消化器 |
圧痛 | 触診 | あり or なし | 腹腔内出血・急性虫垂炎 | 消化器 |
反跳痛 | 触診 | あり or なし | 腹腔内出血・急性虫垂炎 | 消化器 |
筋性防御 | 触診 | あり or なし | 腹腔内出血・急性虫垂炎 | 消化器 |
急性虫垂炎、胃・十二指腸潰瘍穿孔、急性胆嚢炎などにより、腹腔内の炎症が壁側腹膜に及ぶと、圧痛・反跳痛・筋性防御などの徴候が出現する。
⑥四肢観察
四肢は視診、触診で観察します。
項目 | 方法 | 評価 | 疑う疾患(例) | 病院選定 |
---|---|---|---|---|
変形 | 視診 | あり or なし | 骨折 | 整形 |
紅潮 | 視診 | あり or なし | 感染症・ウォームショック | 内科・循環器 |
蒼白 | 視診 | あり or なし | ショック・低体温 | 循環器 |
冷感 | 触診 | あり or なし | ショック・低体温 | 循環器 |
湿潤 | 触診 | あり or なし | イレウス・腸閉塞 | 循環器 |
浮腫 | 触診 | あり or なし | 心不全 | 循環器 |
ばち指 | 視診 | あり or なし | 心不全、COPD | 循環器・呼吸器 |
⑦背部観察
背部は視診、触診で観察します。
項目 | 方法 | 評価 | 疑う疾患(例) | 病院選定 |
---|---|---|---|---|
変形 | 視診 | あり or なし | 骨折 | 整形 |
褥瘡 | 視診 | あり or なし | 感染症 | 皮膚科・内科 |
圧痛 | 触診 | あり or なし | 整形 | |
叩打痛 | 打診 | あり or なし | 尿路結石 | 泌尿器 |
まとめ:全身観察は病態を把握する上で重要。病院選定でも必須
今回は救急活動の流れとして「全身観察」について纏めました。
全身観察では、頭部~つま先まで「視診・聴診・触診・打診」で観察します。
救急は、傷病者を適切な病院に搬送することが求められます。
そのため、迅速な観察と的確な評価を実施できるようにしましょう。
以上
それでは明日も頑張りましょう!全ては傷病者のために(^^)/
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最後まで、読んで頂きありがとうございました。
参考資料:救急救命士標準テキスト、救急標準テキスト
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